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【読書記】Zの時間/榊一郎・活断層

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メガネ美少女の表紙が目印!

 

■引きこもってたら知らぬ間に世界滅亡してた

HJ文庫ではご無沙汰となる榊一郎先生の新作。引きこもりFPSゲーマーの出庭博明少年が主人公の今作。ここ数日(文字通り)クサい飯を持ってくる母親に文句を言ってやろうと博明が部屋を開けると、そこには蒼白を通り越して土気色の顔をした母の姿。それはまるでゲームに出てくるゾンビのよう。こちらに襲いかかってくる母を撃退し一階に降りる博明だったが、既にゾンビ化していた父と弟の姿を目の当たりにする。命からがら逃げ出し転がり込んだ交番で、今度は警官に襲われる博明。絶体絶命の瞬間、目の前でゾンビの頭にスコップが突き刺さった。それが今作のヒロインであり「ゾンビのプロ」樹堂乙羽との出会いだった。

終わってしまった世界の中で展開される、引きこもりミリオタゲーマーの少年とゾンビマニアの少女によるゾンビサバイバルアクションというラノベではちょっと珍しい世界観を、ベテラン榊一郎先生が丁寧に描いた一作だ。そして、表紙から既に魅力全開の活断層先生のイラストも併せて楽しめる作品になっている。

 

■「だから。君も脱いで。確認するから」

いきなりだが、筆者は眼鏡っ娘大好きマンである。もっといえば、眼鏡っ娘でありながら化粧っ気のないちょっと地味めの女の子大好きマンである。そういう意味で本作のヒロイン樹堂乙羽を見ると、実に好みのどストライクだった。売れ行きに影響すると思って眼鏡描写を外しても尚、編集さんに眼鏡っ娘を彷彿とさせる榊先生のサブリミナル眼鏡っ娘技術はさすが二十年ラノベの最前線で戦ってきた榊先生と言えるだろう…

と、それは冗談として。真面目な話、眼鏡=根暗っていうイメージがあるわけで、そういう意味では分かりやすい記号として良いと思う。ゾンビマニアで真っ暗な部屋でゾンビ映画を見るのが好きですって女の子が、手入れの行き届いたゆるふわウェーブにバッチリメイクでコンタクト…というのはちょっと違うような気がするので。

個人的にグッと来たのは、乙羽の淡々とした口調だ。良くも悪くも年頃の女の子らしくない冷静で、淡々とした話し方が、時折見せる可愛らしい一言二言を一層際立たせる。スーパーマーケットでゾンビ相手に立ち回りをした後に見せた乙羽の”デレ”部分は、本当に悶えるような可愛さがあった。どんなものだったのかは、ぜひとも本編を読んで、そして悶えて欲しい。

博明と出会う前の彼女は一体何をしていたのか。本編で少し語られているが、そのあたりは今後も少しずつ明かされていくのだろう。こちらも楽しみにしたい。

 

■「合い言葉は――『生き延びろ。世界をやり直す為に』

本作は2~3冊でひとシーズンとなるとのこと。今回はその第一巻ということもあり、当然明らかになっていない要素が残る。そのひとつはやはり、博明がプレイしていたVRFPSゲーム「ストラグル・フィールド」のサポートAI「レイヴン」についてだ。本来はサポート用のAIでしかないはずのレイヴンの正体(?)について博明は明らかに疑問視していた。本編中でも明らかにAIらしからぬ言動が見られるし、しまいには上記の言葉を博明に残した。レイヴンが今後どう関わってくるのか、非常に楽しみである。

そしてもう一つ、この物語の「終着点」すなわち博明の目的は一体どうなるのか。読み方が浅いのかはたまたそういう風に「仕組んだ」のか分からないが、とりあえず一読した限り主人公である博明が何を目指していくのかが明記されていなかったように思える。もちろん場面毎の行動の理由はしっかりしている。ゾンビ化した家族に食われないよう逃げること、ゾンビから乙羽を守ること、大事な戦友の背中を押してあげること。どれもその場における小さな目標ではあるが、物語全体の目的ではない。レイヴンの正体を掴む…というのも違う気がする。最後の場面で博明がそれっぽいことを口にしているが、いまひとつしっくり来るものではない。

物語において主人公の目的をわかりやすく描くのは読者が入り込みやすくする手法であり、榊先生はそれが非常に上手い作家だ。もちろん投げっぱなしになることはないだろうし、そのあたりは安心して2巻を楽しみに待つことになりそうだ。

 

■ゾンビモノだけどちゃんとラノベしてるっていうバランス感覚

本作は「突然世界中に溢れ出したゾンビ」「ホームセンターに籠もってお手製の武器で戦う」というようなゾンビモノの”お約束”と「VRFPSゲーマーが自分の知識、経験を武器に戦う」「可愛い眼鏡っ娘ヒロイン」というラノベの”要素”がしっかり融合し、ちゃんと1つの作品になっている。舞台はまんまゾンビ映画やゾンビゲーなのに、出てくるキャラクターはちゃんとラノベのキャラで、全体としてラノベとして成立している。

見どころのあるガンアクションが好きな博明のような人、ゾンビものに目がない乙羽のようなゾンビマニア、そして表紙の眼鏡っ娘ヒロインに惹かれた筆者のようなダメな読者、誰もがちゃんと楽しめる一作だ。

「誰も見たことがない最高のハッピーエンド」というのが果たしてどんなものになるのか、物語がどう展開していくのか、微妙な三角関係(?)の行方はどうなるか、じっくりと見ていきたい。

 

 

Zの時間 (HJ文庫)

Zの時間 (HJ文庫)