ゆたんぽを抱いて寝る。

ゆたんぽを抱いて寝る。

猫のこと、本のこと、アニメのこと、野球のことetc...思いついたまま、気の向くままに。

ゆたんぽを抱いて寝る。

名古屋でぼっち飲み「居酒屋 団」

f:id:l-i-t:20180627210944j:plain

「居酒屋 団」は常滑線豊田本町」駅から徒歩30秒!

 

■竜の本陣に燕を求めて

東京から西に350km。本拠地神宮球場から遠く離れた名古屋の地に、その店はあった。

名古屋鉄道常滑線豊田本町」駅に降り立った筆者を、ピンク色の看板が出迎えてくれた。徒歩30秒の謳い文句に嘘偽りはない。

店の名前は「居酒屋 団(だん)」。ヤクルトスワローズ所属中尾輝投手のご母堂が経営されている居酒屋で、スワローズファンの間では有名な店だ。ファン歴は浅くても、48日のヒーローインタビューと聞けばピンとくる方も多いのではないだろうか。感動的なヒーローインタビューは今も印象深く残っている。


no.152 2018/04/08 バレンティン、中尾輝 現地勝利後ヒーローインタビュー

 (中尾投手のヒーローインタビューは1:55辺りから)

駅に降りた時、既に時計は午後8時を指していた。開け放たれた扉の向こうから活気溢れる声が外まで漏れている。初めて降り立った名古屋という町。名古屋に来たらぜひ行きたい――いや、行かなければいけないと思っていた店の前に立っているという実感が体の内側から湧き上がってきて、胸が踊った。いざ、プレイボール!

 

■初回先頭打者ホームラン、からの打者一巡の猛攻

暖簾を潜り店内に入ると、壁にずらりと並んだユニフォームが筆者を手厚く歓迎してくれ、その壮観さに圧倒される。先頭打者にいきなりスタンドへボールを運ばれてしまった。空いているところに、と勧められたので店内を見渡してみると、向かって左側の小上がりは全て埋まっている。正面のカウンター席には常連らしき二人組、右手のテーブル席は空いている。少し考えて、カウンターへ。店の人に近いところで話をしたり、話を聞いたりするのがこの手の居酒屋の楽しみなのだ。

生ビールを注文し、料理を待ちながら店内に目と耳を向ける。入ってきた時に目に飛び込んできたユニフォームたちは、よく見れば一着はスワローズのものだが、それ以外は別のユニフォームだった。あとから話を聞くと、中尾投手がプロ入り前に所属していた高校や大学時代のユニフォームだという。それ以外にも、壁にはたくさんのスワローズ、中尾輝グッズが所狭しと並んでいる。よく見ればレジの脇にもボブルヘッドなどの小物が並んでいて、それらをじっくりと眺めるだけで楽しい。ぎっしりと並ぶグッズ、その中の一つに、筆者の目が留まった。「初勝利 2018.4.8」の文字が入ったボールである。「ウィニングボールは名古屋で居酒屋をやっている母に持っていきます」の言葉が蘇り、思わず目頭が熱くなる。初回からここまで連続して打ち込まれてしまい、既に軽くヘトヘトの筆者であった。

 

■勢い衰えぬ猛攻、次第に相手のペースに飲まれていく試合展開

お通しに舌鼓を打ちつつ、ビールを頂きながら料理を幾つか注文した。その間、店の中ではあっちでヤクルトこっちでスワローズ、とにかく野球の話題が絶えず飛び交っていた。この日は交流戦最終カード2日目、前日に惨敗した日本ハムファイターズとの2戦目だった。デーゲームだったので既に試合は終わっており、スワローズは1-2と1点及ばずの2連敗。そして決勝点を献上したのは他ならぬ中尾投手だというから、なんとも間が悪い。

料理を待っている間、いつの間にか店のテレビで今日の試合の反省会が始まろうとしていた。聞けば、試合の日はいつもこんな感じだという。試合は全部録画していて、常連さんが手慣れた様子で試合の映像を流す。それを肴に客同士、時にはママさんも交えて語らい、盛り上がるのだという。

f:id:l-i-t:20180627212654j:plain

自慢の家庭料理を作るのはママさん

 

筆者はかれこれ十数年来のスワローズファンだ。しかし、初めて入る居酒屋でいきなり主張するのはお門違いというもの。打たれたら打ち返さなければ、というわけにはいかない。常連の集う中、一見は静かに場を愉しむのがマナー。この喧騒をBGMに、しっぽりと名古屋メシと名古屋酒に浸ろう。打たれたあとの立て直しこそが最も大事なのだから。

――そう、思っていたはずだった。

テレビ画面に試合開始前のセレモニーが流れる中、小上がりの方で誰かが言った「今日の試合は(中尾)輝君だけの責任じゃないよね」と。その言葉に、筆者は思わず身を乗り出していた。「今日は8回表の攻撃が問題、あの場面で1点とれないようじゃハッキリ言って打撃陣の責任ですね」気付けばそう、口が動いていた。疲れから二杯目のビールで思いの外酔ってしまったのか、それはわからない。しまった、釣り球に手を出した! そう思った時には、既に審判の手は高らかに上がっていた。

「お客さん、もしかしてスワローズファン?」「あっ、はい」

そこからは、筆者も一人のスワローズファンとして、話の輪に加わっていくことになった。アツいアツいスワローズトークは、遅くまで豊田本町の駅前に響いていた。

f:id:l-i-t:20180627213008j:plain

9回の三振ゲッツーだけはいただけない…! アツいアツいお話とても楽しかったです

 

■中盤以降も強力打線が筆者を襲う

さて、居酒屋の記事なのにいつまでもスワローズの話で紙面を埋めていてはあまりに趣旨違い、救援失敗もいいとこだ。「居酒屋 団」で味わえる料理、そして酒についても触れておこうと思う。

団に行ったらハンバーグを食べよう。そう心に決めていた。もちろん、その裏にはヒーローインタビューがあった。しかし、せっかく名古屋にやってきたのだ、ここはやはり名古屋メシを頂くのが筋じゃないか、という葛藤が同時に湧いてきた。悩んだ末に頼んだのは、手羽先の唐揚げ。この采配は見事的中。手羽先の唐揚げ、実に美味いではないか。外はパリパリなのに、中は柔らかく、噛むほどに染み込んだ味が口の中いっぱいに広がる。なんとも観光客然としたわかりやすいオーダーではあるが、甘辛い手羽先が実にビールに合う。手羽先、ビール、手羽先、ビール……無限に入ってしまいそうなほどだ。食べるのに夢中で写真が無いのが悔やまれる。是非現地で味わってほしい。

続いて頼んだのは豚の生姜焼き。嬉しいことに小さな鉄板に乗ってやってくるではないか。これは既に強打者の予感がする。

f:id:l-i-t:20180627213627j:plain

熱々の鉄板の上で、ジュウジュウと美味しそうな音を立てる生姜焼き。一口食べれば生姜の風味と濃厚な豚肉の味が口の中で幸せに変わる。ビールにももちろん合う一品だが、ここで投手交代。ブルペンから颯爽と湯気とともに現れたのは、熱燗「ねのひ」。知多半島に蔵元を構える盛田酒造のこちらのお酒。一口含んだ瞬間、その濃厚な旨味に驚いた。口の中が日本酒のいい香りで満たされていき、それでいてとても飲みやすい。濃い味付けの料理にも負けない濃厚な味だが、決して料理の邪魔をしない。食中酒として最高の中継ぎ投手にもなれるし、場合によってはこれでしっかりと締めることもできる。なんという万能選手だ。

今回食べられなかった料理や酒はまだまだたくさんある。詳細はぜひとも、店を訪れて確かめてほしい。どれも優しくて美味しい料理ばかりだ。

■そして試合は終盤へ

f:id:l-i-t:20180627213816j:plain

「ここはね、別にヤクルトファンだけの店じゃないんだよ」

筆者の隣で常連さんが語って聞かせてくれた。もちろん、やってくる客の圧倒的多数はスワローズファンだという。しかし、他球団のファンだから、野球を知らないからといって萎縮することはまったくないという。

「この前来てたグループはね、ヤクルトファンと巨人ファンと野球知らない人たちのグループだったよ。この店はね、そういう人たちが来てもいい店なんだ」

今こうして振り返ってみて、その言葉の意味がよくわかる気がする。この場に集っている人たちは誰もが、“この店が好き”で集まっているのだ。野球が好きとか、どこの球団が好きとか、そういうのは関係ない。酒を片手に今日の継投策について語り合う人たちの隣で、仕事の話をしている集まりが展開されている。時折ママさんも話の輪に入っていることもあり、そこには常に笑顔の絶えない、なんともゆったりとした居心地のいい空間が広がっていた。店と客の距離が本当に近くて、一見さんも常連さんもみんな一緒になって笑いあえる店が、名古屋にあった。アットホーム、という言葉が似合う古き良き日本の居酒屋の姿を垣間見たように思う。

「ここはヤクルトファンが集まる店じゃなくて、輝君のファンが集まる店なんだよ」

小上がりに座っていた女性が、笑いながら教えてくれた。野球選手や元野球選手が店を出したり、名義だけ貸して出店したりすることは多い。しかし、ここはそうじゃない。聞けば、店中に置き場に困るほど並んでいるグッズの数々、その多くは団を訪れる客が自主的に持ってきたものだという。中には、大変貴重な記念グッズや、神宮球場の観戦チケットをプレゼントしてくれる客もいるという。

「みんな、ママさんに是非って持ってきてくれるんだよ」

ママさんは嬉しそうに語った。「居酒屋 団」は中尾輝ファンが集まる店であると同時に、ママさんのファンが集う店なのだろう。それはママさんの快活で温かい人柄の為せる技なのだ。終わってみれば、終始圧倒されっぱなしで完敗、といったところだ。いつかリベンジしようと誓い、筆者は店を出た。また名古屋に来た際は絶対に来よう。

f:id:l-i-t:20180627214331j:plain

ママさんとお客さんと

 

■試合を終えて

中日ドラゴンズのお膝元名古屋にあってヤクルトスワローズ全面押しというちょっと不思議な店、それが「居酒屋 団」である。一見するとそこは野球ファンお断りの聖域に思われがちだが、まるで違った。プロ野球選手の母でありながら現在野球勉強中のママさんが優しく出迎えてくれる素敵な店だった。名古屋にお越しの際は是非、美味しい料理と酒を味わってほしい。そして読者諸兄の中で野球好きがいれば、是非とも「居酒屋 団」という球場のマウンドに立って、思い思いの球団愛を全力投球してもらいたい。

 

 

居酒屋 団

愛知県名古屋市南区内田橋2丁目24-18

名古屋鉄道常滑線豊田本町」駅すぐ側)

定休日 日・月

twitter.com

プライバシーポリシー