旅に出よう、君を助手席に乗せて。この滅びかけた異世界で。
終わりゆく世界を旅をする1人の異世界人がハーフエルフの少女と出逢い、人の暖かさに触れながら生きてゆく物語
本作の最大の魅力は、なんと言っても人の暖かさにある。
作品中でケースケとニトは様々な人と出会いと別れを繰り返していくのだが、出会う人達が本当にみんな優しくて、あったかい。読んでいてこんなに気持ちが和らいだ作品は久しぶりだ。
一見すれば気難しそうに見えるが、死に別れた妻のことを今でもずっと大切にしている職人。
病を患って記憶が消えていく中で苦悩し、愛する人のことを思う男と、それでも支え続ける女。
父親に逢いたいと願い、父親が作り上げた橋まで旅してきた青年。
本質を見抜く力に長けた、伝説の魔女。
舞台は、魔力が溢れ出したせいで人々が次々に結晶化していき、既に人類の大半が消滅してしまった世界。しかしそこで出会う人達は本当に心優しくて、誰もが今日という日を大事にしながら生きている。ゆっくりと終わりゆく世界の中でケースケとニトが出会う人々の暖かさ、二人の優しくて前に向かって歩み続ける旅路を、是非とも彼らと一緒になって歩んで欲しい。
意外と毒舌? だけど心優しいハーフエルフのニトが超絶かわいい
透き通るような銀髪に、整った容姿。見た目は本当に可愛らしいハーフエルフのニトだが、意外と毒舌な場面が多い(主にケースケに対してだが)。絵が得意で常に様々な風景を水彩絵の具で切り取ることが多い彼女だが、筆者が心を打たれたのは物語の序盤、壊れてしまったケースケの蒸気自動車(ケースケはヤカンと呼んでいる)とニトのオート三輪を修理するためにヴァンダイクの工場を訪れた場面でのことである。
最終的にはヤカンとオート三輪を連結して彼らは工場を後にするのだが、そこでニトは工場滞在中に描いた絵を、ヴァンダイクにプレゼントしている。きっと彼女なりの感謝の気持ちの表し方なのだろう。こういう、ふとした瞬間に見せる彼女の優しさが作中にはたくさん転がっている。彼女たちの旅路を追いかけながら、是非ともニトの魅力を見つけて欲しい。
こういう異世界転生モノならもっと読みたい
正直、今流行りの異世界転生モノというジャンルに筆者は少し抵抗を覚えていた部分があった。良し悪しではなくあくまで個人の好みの問題なので気を悪くしないでほしいのだが、異世界転生モノというとどうしても「主人公がチート級に強くて」「チート能力で敵をバッタバッタとなぎ倒していって」「ヒロイン全員が無条件に主人公に惚れていく」みたいなイメージがどうしてもあった。
しかし、本作においてケースケはちょっと料理が得意なだけの普通の(元)高校生だし、車の運転だって出来るというだけで上手いわけでもないし、特筆すべき能力を持って転生してきたわけではない。だからだろうか、等身大なケースケの姿に筆者は非常に好感を覚えた。初めは異世界に対して絶望感を覚えていたケースケが、物語を通じて、ニトとの旅を通じて少しずつ前向きになっていくのもまたいい。
本作は全体を通してド派手な戦闘シーンがあるわけでもないし、一万人の軍勢を相手に無双するような展開もない。なにしろ、世界そのものが緩慢に終わろうとしているのだから。だからこそ、人の暖かさがより際立つのだろう。
終末世界の中でゆっくりと流れる時間。不思議と悲壮感はなく、どんな世界になったとしてもそこで生きる人々はなにかしら楽しみを、生きがいを持ちながら生きているのだというのを本作で知ったような気がする。
終末世界が好きな人、旅物語が好きな人、あったかいお話が好きな人には是非とも勧めたい一冊だ。
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脳内CVメモ
ケースケ:梶裕貴
ニト:小原好美
ヴァンダイク:興津和幸