ゆたんぽを抱いて寝る。

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読書記「スパイ教室02《愛娘》のグレーテ」竹町/トマリ(富士見ファンタジア文庫)

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ワケあってカバーの子は今回出ません 

 

チーム《灯》正式始動!

前回「スパイ教室01《花園》のリリィ」で見事不可能任務を達成し、正式にチームとして始動することとなった《ともしび(ともしび)》。

彼女と、そして教官であり世界最強のスパイであるクラウスに与えられた次なる任務は、暗殺者殺し。そしてこれもまた、不可能任務であった。

本作、前回からそうなのだが非常にリリィが上手く機能している。基本的にはポンコツなドジっ子キャラとして敵味方問わずトラブルに巻き込んでいくのだが、時にキラリと光る作戦を成し遂げたり、あるいは敵を華麗に欺いてみたり。このあたりは、さすがクラウスが目をつけた精鋭部隊《灯》のリーダーと言ったところか。まぁ、既に書いたとおり重要な局面以外ではその基本的にポンコツっぷりを遺憾なく発揮してくれるので見ていた非常に面白いのだが。

笑ってしまったのは、選抜メンバーが誰になるかという話の場面。リリィは同じく落ちこぼれ(候補)の《百鬼》のジビアを連れ立って必ず選ばれるであろう優等生の1人《氷刃》のモニカの前祝いをしにいくのだが、ここでまさかの自分たちが選抜され、モニカが選抜から漏れてしまうという事態が発覚。それも、モニカをこれでもかと盛大に祝ったその直後である。

スパイという非常にダークな側面が強いモチーフながら、作戦以外の場面では個性豊かな8人の少女たちが陽炎パレスで面白おかしく過ごしている描写も多く、決して重苦しくなりすぎないちょうどよいバランスが非常に魅力的な作品である。

 

コードネーム『愛娘』——笑い嘆く時間にしましょう

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本作の主役とも言えるのが副題にもなった《愛娘》のグレーテである。大物政治家の子女として生まれるも、紆余曲折を経てスパイ養成学校に入学し、今に至る。グレーテの特筆すべき能力、それは天才的なまでの変装能力と、そして圧倒的なまでの作戦立案能力にあった。後者に至ってはクラウスにも迫るほどと言えるのが本編で存分に語られている。

しかし、彼女の真の魅力はそれだけでない。グレーテは誰よりも努力家で、一途なのだ。恋する乙女は最強などと誰かが言ったとおり、クラウスに対して恋心をいだいているグレーテは、作戦を通じてなんとかクラウスの力になろうと奔走する。その一生懸命で一途な姿は、物語を読み進めていくほどに魅力的に映し出されていく。スパイに必要なのは戦闘能力だけではない。全てを客観的に俯瞰できる状況把握能力と、あらゆる事態を想定して作戦を立案し、仲間を効果的に動かすことの出来る能力もまた、一流のスパイに必要な能力なのだ。

仲間のため、そして自分の真の姿を知ってなお「美しい」と言ってくれた愛する人のため、命を賭して不可能任務に挑むグレーテの姿は注目である。

 

コードネーム『百鬼』――攫い叩く時間にしてやんよ

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そしてもうひとり。モニカからはリリィと並んでチームの二大ポンコツと称される《百鬼》のジビアを紹介せずして本作は語れない。グレーテがその頭脳と変装能力で裏からひっそりとチームで活躍するのなら、ジビアは正反対。チームの中でも最強クラスと言われる程の身体能力と圧倒的なまでの”盗み”の技術。この2つに加えてどんな相手であっても物怖じせず距離感を詰めていく人間性。これらを武器に、ジビアは今回の護衛対象であるウーヴェ氏と上手に距離を詰めていく。

リリィもそうなのだが、バカというのは時として武器になる。それを筆者はジビアと、そしてリリィから学んだような気がする。常人、あるいは思慮深い一流のスパイならばいかに護衛対象と親密になるべきと言えど、どこかで警戒したり計算が働いたりする場面もあるだろう。しかし、ジビアは良くも悪くも相手に真正面からぶつかっていくザ・体育会系のバカなのだ。だが、それ故にウーヴェ氏の信頼を見事に勝ち取り、結果として運転手兼メイドとして身も心も護衛対象に近い場所に収まることが出来たのである。

終盤の戦闘シーンでは、リリィと共に見事な大立ち回りを見せてくれる。普通のラノベには見られない、スパイらしい狡猾で練りに練られた戦いっぷりを是非ともその目で確かめてほしい。

 

読後感はまさに「極上」

1巻の時点で非常に物語としての見せ方が上手い作品だなと思っていたのだが、今回は輪をかけてアッと驚くような展開だった。

スパイにおいて大事なのは、あらゆる相手を欺くこと。欺く相手は敵であり時に味方でもあり、そして読者すらも欺きながら任務を達成していくことが必要とされる。筆者は今回、チーム《灯》に終始欺かれっぱなしだった。暗殺者の正体、ウーヴェを狙っていた相手のこと、そもそも何故今回はリリィ達成績の低い4人が選抜メンバーとして抜擢されたのか、戦闘向きではないグレーテが実力派の暗殺者相手にどう立ち向かっていき、どうやって敵を打ち倒すのか。

まさかあれもこれも全て変装だとは全く思いもしなかったし、あらゆる行動が全て作戦遂行のための布石になっているというのは本当に驚かされたし、最後の決着場面は本当に読んでいてザワッと心が震えた。

次巻は8月20日発売。1巻、2巻は早くも重版が決定し、コミカライズも始まった。この勢いのままなんとか4巻、5巻と続いてほしい。まだまだ《灯》の活躍と成長が見たいものである。

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