ゆたんぽを抱いて寝る。

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猫のこと、本のこと、アニメのこと、野球のことetc...思いついたまま、気の向くままに。

ゆたんぽを抱いて寝る。

オリジナルショートショート「熱中症」

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「日本各地はまだまだ夏の暑さが抜けず、引き続き熱中症に気をつけて――」

テレビが相変わらず暑苦しいニュースを続けている。

熱中症ですって。あーやだやだ、ろくに外出もできたもんじゃないわ」

彼女がテレビに向かってぼやきながら、冷やし中華を豪快に啜る。なんだかんだひと夏で十回以上冷やし中華を作っているが、ついに僕の冷やし中華にマヨネーズを入れるという行為が理解されることはなかった。美味しいのに。

じゃあ涼しくなったらどこか行く?

「過ごしやすくなったら家で風を感じながら読書に勤しむに決まってるでしょ」

それじゃあ冬は?

「あんな寒い中外に出るなんて狂気の沙汰よ。炬燵と同棲するのが筋ってものよ」

根っからの引きこもりか。

「過去100年くらいはずっと引きこもりよ」

生粋の引きこもりだった。

それにしても熱中症か。今はエアコンの効いた部屋の中だから暑さは感じないが、窓越しに降り注ぐ日光はギラギラと輝いていて、一歩部屋の外に出ようものなら殺人的な熱気が待っている。

ふと、僕はひとつイタズラを思いついた。熱中症と言えば、というアレである。

ねぇねぇ、”熱中症”ってゆっくり言ってみt。

「やだ」

湿り気のある視線とともに、僕の目論見は呆気なく崩れ去ってしまう。さようなら恥ずかしげに「ねっ……ちゅう……しよう……?」なんて言ってくる彼女inサマー。

がっくりと項垂れる僕を見て、彼女がカラカラと笑った。そして、

「ねっ――――よ」

僕の耳元で、囁いた。

それは、下手したら聞き逃してしまうくらいに小さな声で。しかし、僕の耳にはハッキリと聞こえていて。

僕は顔を上げる。今、彼女は確かに言ったのだ。

いや、『ねっ、スマブラしよ』じゃないから。そこはもっとこう……

「勝ったら負けたほうがなんでも言うこときくってルールでどう?」

僕の言葉を遮るように彼女は言った。

ん、今なんでもって。

「うん。なんでも」

言質は取った。

僕のドクターマリオが彼女のピカチュウを完膚なきまでに叩きのめす未来が見える。これでも地元じゃ負けなしだったんだ。と、そこで僕は訝しんだ。

いや、待てよ。これは彼女なりの遠回しなフリなのではないか。僕を勝たせることで遠回しにさっきの”熱中症”の流れをもう一度させたいのでは。そう、勝者である僕の命令で仕方なく、という言い訳が彼女はほしい。そうに違いない。

「どうしたの?」

なんでもないよ。それじゃあ始めよう。言っておくが、手加減はしないよ。

「それは私の台詞よ」

盛り上げどころがわかってる。可愛いやつめ。

GO!! という合図と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「んー、おいしい。やっぱりハーゲンダッツはストロベリー味よねぇ」

両儀式みたいな感想を漏らしながらハーゲンダッツを頬張る彼女を見ながら、僕は滝のように流れる汗を拭った。

おかしい。どうして僕はこのクソ暑い中全身汗だくになりながらハーゲンダッツを買うためだけにスーパーに行ってきたんだ。

「それはキミが勝負に負けたから……」

だからそれがおかしいって言ってるの! どうして!? この間まで操作もおぼつかなかったじゃん!

「ヒマだったのよ。それで、ネットで解説動画見ながら練習してたのよ。いやぁ、思いの外強くなっちゃってたみたいね、私」

なろう系の主人公かよ! えっ、じゃあなに、最初からハーゲンダッツ買いに行かせる気満々で勝負挑んできたの?

「そんなことないわよ。ただ、思った以上にキミが弱かったから」

もうやめて! 僕のHPはとっくにゼロよ!

「ちなみに、もしキミが勝ってたらどんなことをさせるつもりだったの?」

彼女がいたずらっぽく僕を見上げて言った。

それは――

「ま、どうせキミのことだからそれはもう口では言えないようなド変態プレイを――」

風評被害! いやまぁ下心満載だったとは口が裂けても言えないが。

「ほんとかなー?」

彼女がニヤニヤと笑う。

クソぉ、まさか負けるなんて思いもしなかった。次回はマリオカートでリベンジしてやらねばなるまい。僕は静かに誓った。

「ま、それはそれとして」

彼女はスプーンでアイスを掬うと、そのままアホみたいにぽかんと開けている僕の口に突っ込んできた。

「せっかくお高いアイス買ってきてもらったから。はい、おすそ分け」

口の中いっぱいに甘いストロベリーの味が広がる。

熱中症――なっちゃうと大変でしょ」

それだけ言うと、彼女はアイスを頬張った。少しだけ耳が赤くなっていたようにみえたけれど、きっと夏の暑さのせいに違いない。

 

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