ゆたんぽを抱いて寝る。

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読書記「スパイ教室 短編集01 花嫁ロワイヤル」竹町/トマリ(富士見ファンタジア文庫)

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スパイ教室とは

第32回ファンタジア大賞で見事大賞に輝いたのが本作「スパイ教室」

各国がスパイによる”影の戦争”を繰り広げる世界。養成学校で落ちこぼれだった7人の少女たちはある日死亡率九割を超える「不可能任務」に挑む機関「灯」を結成するため集められる。史上最強のスパイと呼ばれたクラウスを中心に不可能任務に挑むため少女たちは過酷な訓練に励むことになる——のだが。

成り行きで「クラウスに降参と言わせる」ことが唯一の課題となった少女たちの奮闘、そして共和国に迫るスパイの影とは一体。全く新感覚のスパイ小説、読み終えた時あなたはきっとこういうだろう「極上だ」と。

 

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ラブでコメな模様がたっぷりの短編集

竹町先生があとがきでも書かれている通り、本編は300ページ強でぎっしりと物語を詰め込まなければいけない。それ故、必然的にギャグ的な話や少女たちの日常にスポットを当てた話は中々書けなかった。そんな、今まで描かれなかった日常の訓練や面白可笑しいイベントにスポットを当てたのが本作である。短編である以上、ある程度長編を読んでいることが前提となっているのでそこは注意した方が良いだろう。

ただ、単なるドラマガ連載分の短編集というわけではなく、そこにしっかりとストーリーが有り少女たちひとりひとりのキャラクターがしっかりと深堀されており、そのおかげで世界観をぐっと広げてくれる、そんな一冊になっている。

 

《花嫁》は一体誰だ

「クラウスが妻帯者だった」

《愛娘》グレーテが婚姻届をでっちあげて役場に提出した(!?)ことから明らかになった新たな事実。どうやら《灯》の誰かと結婚している(ことになっている)らしいという話から、クラウスの《花嫁》が一体誰なのかという話になっていく《灯》の少女たち。

そしていつの間にか、最後まで勝ち残った一人がクラウスの新しい《花嫁》になれるというとんでもない勝負に発展していく。これは本編の一巻と二巻の間に起こった、約一カ月間の物語なのだが、この時点で全員が少なからずクラウスに対して好意を(少なくとも悪意以外の何かを)持っているというのが、スパイと言えど年頃の少女なのだなというのが垣間見えて非常に微笑ましい。

本記事では、収録されている短編の中でも筆者が特に印象的だった話に絞って感想を述べていこうと思う。

 

コードネーム『草原』——駆け回る時間っす

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《花嫁》の嫌疑をかけられた一人が《草原》のサラ。アネットやエレナ達と同じ年少組のサラ。引っ込み思案で消極的な性格の彼女が光ったのが、《灯》全員VSクラウスで行われた陽炎パレスの修繕・掃除対決だった。

普段から自信が持てず、他のスパイと違って明確な目的も無く成り行きで養成学校に入ったサラ。ややもすれば足を引っ張りがちなその優しい性格は、きっと彼女の唯一無二な個性として仲間の役に立ってくれることだろう。なんといってもサラの一番の魅力、それは動物を使役する能力だ。スパイとしての力は、決して直接的な戦闘力や類稀な変装能力や毒ガスの効かない特異体質だけではない。そんなことに気付かせてくれる話だった。犬も鳥も可愛いよね。

 

コードネーム『氷刃』——時間の限り、愛し抱け

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落ちこぼれが集まった《灯》だが、モニカだけは頭一つ抜きんでた実力を備えたまま陽炎パレスにやってきた存在だ。『百鬼』に勝るとも劣らない身体能力を持ち、本編中でも数々の作戦で突破口を切り開いてきた彼女。だが、『灯』のメンバーは誰もモニカの真の能力を知らない。出自も、スパイになった理由も、なぜそれだけの力を持ちながら養成学校で落ちこぼれたのかも。

そんなモニカの、本編で語られなかったあれこれが明らかになったのが本作なのである。ボクっ娘で強キャラでメカクレとかいう筆者の好みを全部かっさらうモニカが、ふとした出来事に巻き込まれて初めて見せた”本当の自分”。(恐らく)本編を差し置いて初披露目となった口上も含め、非常に良いエピソードだった。

 

極上な短編が多数収録

結局クラウスの《花嫁》が一体誰だったのか。そして成り行きで始まった花嫁争奪戦の行方は果たしてどうなるのか。各エピソードがしっかりとラストの書き下ろしに生かされている本作の結末は、個人的に大変ニヤつくものであった。そして笑った。極上な読後感と共にすでに今月末に迫った単行本5巻の発売を楽しみに待つとしよう。

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