ゆたんぽを抱いて寝る。

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2021.10.31上野鈴本演芸場余一会「古今亭菊之丞独演会」で芝浜の常識が変わった気がした

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一応、ちゃんと舞台になった場所はあるんですってね

 

本寸法な江戸前の落語を聴きたければ菊之丞師匠と文治師匠を勧めてます

好きな古典落語文七元結

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こんばんは、LITさんです。

 

文七元結、色々な名人上手を聞いたつもりですが、こういう人間のエゴとか心理状態とかそういうのを描かせたら、本当に立川談志という噺家は天才だったんだなと思わされます。

亡くなった後にこういうハマり方をするの、個人的にはあまり良くないと思うんですよね。だって、もう新しい立川談志の噺は逆立ちしたって聞けないんだから。そこで止まっちゃうんですよ。古典落語とはいえ、常に新しいものを開拓して自分の中でアップデートしていかなきゃいけない。そう思いながら、既に終わってしまった過去をどんどん掘り返していってる。この矛盾と戦いながらこれからも生きていくんだろうなと思ってます。

 

去る10月31日。M3でひとしきり楽しんで、その後あれこれと用事を済ませたあと。最後に上野鈴本演芸場古今亭菊之丞師匠の独演会を見てきました。なんとなく芸協の寄席ばかり行っているせいでLITさんは芸協派なんでしょ? とLITさん界隈から言われがちな筆者ですが、落協の寄席だって行くし好きな噺家もたくさんいます。

その中でも、菊之丞師匠の落語がねぇ、ほんと好き。

ほんとに江戸前で、快活で、聞いていてグッと引き込まれる、そんな落語を演る噺家なんですよね。それでいて、枕が面白い。そんな菊之丞師匠の独演会に行ける都合がついたこと、非常に嬉しく思いながら会場入りしました。

 

開口一番は、弟子の古今亭まめ菊さん。

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今や女流落語家も珍しくない時代になりましたが、その中でもまぁーーー師匠譲りの聞いていて気持ちよくなる落語を演るんですよ、彼女。前座も三年が経ち、そろそろ二つ目も見えてきたまめ菊さん。この日かけた「転失気」、珍念さんのながーーーーーーーーーーーーーーーい返事は思わず拍手が沸き起こるほどでした。寺は廊下が長いのでね、仕方ないね。

可愛らしい仕草と愛嬌のある話し方で、非常にほっこりとする転失気でした。

 

次に上がったのは、入船亭小辰さん。

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若手2つ目ながら、非常にいい滑稽噺を演る噺家さんです。聞いていてストレートにゲラゲラと笑える、そんな落語が聴きたければ筆者は小辰さんをおすすめしたいですね。そんな小辰さん、この日かけたのは「高砂や」

八五郎が結婚式であれこれしくじるっていう典型的な滑稽噺なんですが、しくじり方というかしくじりに持っていくまでのあれこれとした肉付けが非常に面白い。聞いててゲラゲラと笑いましたよね。

そして、来年真打昇進が発表になりました。真打披露、タイミングが合えば行きたいなぁ……

 

中入り前は菊之丞師匠の一席目、夢金です。

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これも大ネタとしては定番かもしれませんが、難しいネタなんですよね。

それでも、さすがは菊之丞師匠。冬の寒い寒い季節感とか、金にがめつい熊五郎とか、まるで目の前にその人がいるみたいな世界観に一気に引きずり込まれるんですよね。あと、途中まで侍にビビり散らしてたのが金を渋った途端にイキり散らして侍を中州に置き去りにして娘を助け出すという男気あふれるところとか、そういう熊五郎の本当の人となりを(夢だけど)しっかりと描ける、そういう噺家なんですよね古今亭菊之丞という噺家は。

サゲ、珍しく(?)下ネタに走らないのは、もしかしてこのあとに控えてる金翁師匠に稽古付けてもらったのかしら? と思ったりして。素晴らしい一席でした。

 

ここまで描いた芝浜を筆者はまだ知らない

中入りを挟んで、高座に上がったのは三遊亭金翁師匠。

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どちらかと言えば、未だに”金馬”のイメージが強い金翁師匠ですが、久々に高座でお見かけしたような気がします。御年92歳。落語協会では最年長ですね。しかしながら、年齢を一切感じさせない落語の腕前、いやはや舌を巻くとはまさにこのことですね。

というかね、マクラからもう面白い。ほんと、名人芸ってすごいなぁと思わせてくれますね。

今日かけたのは新作「こなさせ地蔵」

実際に存在した北見の産婆さんがモデルになったこの噺。金馬時代からの得意ネタだったわけですが、実はちゃんと聞くのはこれが初めてで。最初は滑稽噺かな? と思わせるような面白い情景が続くんですが、最後はホロリといい展開と、ほっこりとする素敵なサゲで。

古典か新作かって言われるとどうしても古典が好きと言ってしまいがちな筆者ですが、こういう新作もいいなぁと思わせてくれる、そして名人の芸とはまさにこれだというのを見せつけられた、そんな一席でしたね。

 

 

さぁ、トリを飾るのはもちろん菊之丞師匠。

選んだのは、もう説明不要の大ネタ中の大ネタ「芝浜」

 

商いをサボりにサボってた勝五郎が、いやいや河岸に向かった帰りに芝の浜で汚い財布を拾って……ってこの説明要らないですよね? その芝浜です。

 

おかみさんがねぇ、ほんとに色っぽいんですわ。その上、よく出来たおかみさんで。明烏なんかもそうなんですが、色っぽい女性を演らせたら天下一品なんですよね菊之丞師匠。

話は逸れますが、その菊之丞師匠に師事したまめ菊さんが将来どんな噺家になるのか、どんな噺をやるようになるのかというのは非常に楽しみだったりします。基本的に女性はバレ話(下ネタや遊女の噺)をやらないという不文律みたいなものがあるわけですが、そこをあえてぶっ壊して明烏とかやってくんねぇかな、と思うのは筆者がエロいおっさんだからなのかそれとも。

そんな余談はさておき、芝浜に戻りましょう。

 

聞いていてびっくりした、というか未だにあのときの噺を思い返してゾワッとするのは、噺の構成が今まで聞いたことのないものだったことです。この噺、多くの噺家は勝五郎が一念発起して頑張って商いに精を出し、あっという間に借金を返して月日は流れ三年後……という噺を演ります。そこから、三年越しのネタバラシがあって、感動のサゲ……という流れが普通です。というか、筆者もそういう噺だとずっと思ってました。

 

だけどねぇ、すごかったんですよ菊之丞師匠の芝浜。

勝五郎が心を入れ替えて商売頑張る、というところまでは一緒なんですが、違うのはここから。お得意さんのところに申し訳なさそうに顔を出して、その性根と目利きの良さからまた出入りを許される場面とか、お得意さんからの口コミでお得意さんが増えていくこととか、勝五郎の腕の良さとか人柄とか、そういうのをこれでもかっていうくらい丁寧に描写してたんですよ。

確かに、「本当は商売上手で真面目な人間」ってさらっと言われるよりも、こういう一面があって目利きが良くて、お得意さんからも信頼される本当にいい魚屋で、という場面を描写することでぐっと説得力が増します。

それだけじゃない。三年のうちになんとこの勝公、棒手振りから大出世して町内に店を持ち二人の奉公人を抱えるほどの商売人になったというから本当に驚きだし、それだけ腕が良い商売人だったんだなということが、これで益々わかります。

これだけやってくれるからこそ、サゲに至るまでの流れが更に引き立つんですよ。本当は根が真面目で商売が、仕事に一生懸命な人間だからこそ、あれだけのしくじりを嫁さんのおかげで取り戻せた、その感謝の気持ちとかあれこれとか、そういうのがもうこれでもかっていうくらい伝わってきて。ややもすれば蛇足とか説明過多なんて言われるかも知れませんが、筆者にとっては最高の芝浜でした。

奥さんに頭付いて謝れるところなんかも、本当に奥さん思いのいい旦那さんだったんだなというのがよく分かる一幕でしたよね。

最後、外には雪がちらついていました。雪が降る音と、除夜の鐘の音が鳴り響く。借金取りの来ない晦日の夜。い草のいい香りのする家で、囲炉裏の向こう側には愛する奥さんが居て、本当の幸せがここにあって。

本当に素敵な芝浜を見せられて、終わる頃には自然と涙が溢れていました。

 

はぁ、本当にいい年越しでした。みなさん良いお年を(まだ早い)

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