いい場所でした
下町情緒溢れる場所に客と芸人が集う場所、それが墨亭
3月6日、14時開演の「桂文治の会」に行ってきました。
場所が向島ってのがまたいいんですよね。東武鉄道曳舟駅を降りて、徒歩で15分くらいでしょうか。下町情緒漂う鳩の街商店街を抜けた先に建つ、古い建物。その二階が寄席だということを知っている人は、果たしてどれほど居るのやら。
キャパ15という本当に小さな寄席。それもそのハズ、会場の広さは六畳二間。そこに高座があって客席があってというのだから、そりゃあキャパも必然的に15になるというもの。だからこそ、芸人と客席がぐっと近くて迫力満点の高座を見ることが出来る。そんな墨亭に今回念願かなって行くことが出来ました。それも、大好きな桂文治師匠の会。いやぁ、楽しかったなぁ……
墨亭の様子に関しては、神田紅佳先生の動画で。
前座(真打)とかいうここでしか見られない番組
開口一番を務めるのは、弟子の空治さん。掛けたネタは「狸賽」でした。
こういう会だと普段は聞けない前座さんのマクラが聞けるのも約得というもの。1月末に空治さん、文治師匠と立て続けに例の病魔に罹った時の話、めちゃくちゃ笑いながら聞いてました。
肝心の話の方はというと、やっぱり文治一門らしい師匠譲りの、快活で勢いのある口調は聞いていて心地いいですよね。狸の表情とか賽子が転がる様子とか、見ていて光景が浮かんでくるんですよね。
続いて本日の主役、文治師匠の一席目です。
上方では「はてなの茶碗」江戸では「茶金」と呼ばれるこのネタ。
京都人ではないので上手い下手はわかりませんが、文治師匠の京都弁は京都愛にあふれていて、聞いていて凄く楽しかったです。やっぱり、去年何度も京都に足を運んで現地の人達と触れ合ったことが影響してるのかな? なんて思ってみたり。
文治師匠の演る落語は、人物の描写が好きなんですよね。当たり前なのかもしれないですが、グッと引き込まれるような噺を演られる。決して勢いだけじゃない、そこに緩急が付いて完成する。いい茶金でした。
ところで、「今日は(自分が)三席やりますのでね」ってどういうこと?
客席の自分が「はてな?」と思いながら中入りが終わり、高座に上がったのは再び文治師匠。プログラムは空治さんと二席ずつの予定だったのですが、どうやら空治さん、「たらちね」があまりウケないと悩んでいるとか。そこで、食いつきに師匠が上がって高座を温めてくれるという。いやぁ……なんという弟子愛。粋だなぁ……。そして、掛けたのが先代が大得意としていた「豆や」というから驚きです。
この噺ね、本当に理不尽な仕打ちが続くんですよ。でも(豆屋には悪いですが)それ以上に聞いていて本当にゲラゲラと笑っちゃう。噺自体の面白さもそうなんですが、値引きさせる男とその親分(みたいな顔の人)を演る文治師匠の迫力がもうね……最高。大笑いしながら見てました。ちょうど3月はそら豆出始めの季節。季節的にピッタリで、先代の豆やが大好きな筆者には嬉しい一席でした。
そんな師匠のバトンを受けて、満を持して(?)空治さんの二席目。もちろん「たらちね」です。
「只今の前座さんの噺は、豆やでした」「(ああいうこと)言わないでやればいいのにね」「でも、笑ってください」マクラでしっかり師匠をイジっていく空治さん。師匠も師匠で弟子をネタにしてるし、なんだかんだ言って本当に仲のいい師弟ですよね。
そんな空治さんのたらちね。このひと月くらいで上がったネタということでさてどんな仕上がりかなと思いながら聞いてましたが、ちゃんと面白いじゃないですか。小さなくすぐりはもちろんですが、嫁さん(みずからことの姓名は以下略)のキャラクターがちゃんと面白おかしく出来てる。後から師匠が言ってましたが、たしかに言い立て間違ってる部分はあります。でも、これから稽古を積んで行けばもっともっと面白くなるハズ。楽しく初々しいたらちねでした。
さぁトリを飾る文治師匠のネタはなにかなー。
ふむ、二階の寝室で? 若旦那が患って? 様子を見に行ってほしい??
ははぁ……なるほどわかった。「崇徳院」だ!
このネタ好きなんですよね。恋患いした相手を探すという実に面白おかしい噺なんですが、サゲが好きなんですよね。クスリと出来る粋なサゲ、こういうのも落語の醍醐味だと思います。
実は文治師匠崇徳院ってちゃんと聞いたことがなくて。よく演るのはTwitter等で眼にしてるんですが、これは楽しみ…………ん? なんか違う。患ってるのは間違いないけど……金属を…………舐め……………………?? 違う、これ「擬宝珠」だ!!!!
出たよぶっ飛んでるネタが。擬宝珠を舐めたい、それも浅草寺の五重塔の擬宝珠を舐めたいとかいうぶっ飛んだ噺。噺そのものはもちろんですが、文治師匠の口調から表情から何もかもが面白い。途中で何度も「~~~~~~(なんて言ってるか聞き取れない)」を「空治が聞きたい?」とくすぐりを入れてくるところも面白かったし、とにかく終始笑いっぱなしでした。
次回は4月23日
終演後、楽屋を訪ねて少しだけお話をさせていただきました。師匠は師匠で空治さんがスマホばかり触っていて稽古しないと愚痴ってたし、空治さんは空治さんで師匠がなんでもTwitterに書くものだから困ってるみたいな話をするし、ホントに師弟仲が良くて羨ましいなと思いましたよね。
次回の「桂文治の会」は4月23日。それ以外にも墨亭では様々な会を催してるので、なにか刺さるものがあった人は是非行ってみると良いんじゃないかなと思います。
開演前や終演後に、近所をふらっと散歩するのもいいかと。全然下町と無縁の筆者ですが、ああいう場所を散策するのも情緒あっていいと思います。