ゆたんぽを抱いて寝る。

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読書記「スパイ教室」竹町/トマリ(富士見ファンタジア文庫)

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世界最強の騙し合い。

 

7人の少女たちは落ちこぼれか、それとも天才か

本作は、第32回ファンタジア大賞で見事大賞を受賞した竹町先生のデビュー作「スパイ教室」である。

 

あらすじ

物語の舞台は、世界大戦で多くの犠牲者を出したあとの世界。血で血を洗う戦いはコスパが悪い。各国はそれに気づき、戦争はスパイが活躍する情報戦へと変わっていった。陽炎パレスと呼ばれる場所に集められた落ちこぼれの少女七人が挑むのは、死亡率99%とも言われる不可能任務。その教官であるクラウスが化した課題は唯一つ――

「あらゆる手段を持って僕を倒すこと」

少女たちは時に協力して、時に味方さえも欺きながら、来たるべき不可能任務に向けて共同生活を始めることになる。

 

 

新人とは思えないほどしっかりとした表現力なので安心して読める

読んでいて感じたのは、新人のデビュー作とは思えないほどの安定感である。賞レースに出た作品は、よくも悪くも新人らしいクセがあることが多いのだが、竹町先生の文章には、それがない。だからだろうか、すんなりと読みすすめることが出来た。尖った比喩表現も無く、それでいて情景描写も丁寧で、自分の中でしっかりと世界ができあがっているんだなというのがよく分かる。

戦闘シーンは非常にスピード感があり、それでいて常に大人数で動いているにも関わらず描写がすごく上手だと感じた。殆どの場面において七人の少女たちが同じ空間にいる状態なのがこの作品の特徴とも言えるが、そうなるとセリフや動きも当然七人分発生してくる。これを上手くコントロールしながら動かせる技術力、それでいて物語がしっかりと練り上がっているのだから、思わず本当に新人なのか? と疑ってしまうほどだ。

 

すべての存在を欺くスパイの作戦。さすがだった

本作は富士見ファンタジア文庫の公式ページで特集ページも組まれているので、もし興味がある人はそちらを覗いてみるといい。

fantasiataisho-sp.com

さすが大賞受賞作。しっかりとPVが用意してあるわまだ映像化もしていないのにキャラクター一人一人にもう声優が割り当てられているわ、いやはや力の入れっぷりがすごい。

 

と、それは余談だった。

あらすじにも書いたとおり、本作品で七人の少女たちが挑むのは、不可能任務と呼ばれる超難関の任務。そのために一ヶ月掛かって少女たちは必死に特訓し、成長していくわけだが……

正直、この作品のキモとなる部分は実際に読んで味わって欲しいとしか言えないのが実にもどかしい。感想記事である以上ある程度内容はお伝えしたいところなのだが、ネタバレしてしまってはこの作品の持つ本当の魅力が半減してしまう。なんでこんなに奥歯に物が挟まったような表現しかできないのか気になった人は是非とも読んで欲しい。

スパイたるもの、敵は勿論味方さえも、全てを欺かなければいけない。

その本当の意味がわかるのは、読者だけなのだから。

 

チーム『灯』がどんな成長を遂げていくのか

陽炎パレスに集められた少女たちは全員落ちこぼれ、もしくは様々な理由で養成学校から爪弾きにされた者たちばかりであった。それを教官であるクラウスが超一流のスパイに仕立て上げるというのが本作のストーリーなのだが、ここまでならよくある「落ちこぼれの少女たちを超一流の教師が成長させる」テンプレ作品なのだが、本作の面白いところは教官でありチーム『灯』のボスであるクラウスにある。

名実ともに世界最強のスパイであるクラウスだが、びっくりするくらい教えることが下手なのだ。まるで服を着るのと同じ感覚で南京錠を解錠するような腕前の持ち主ゆえに、教えることがまるで出来ない。だからこそ「僕を倒すこと」という課題を少女たちに与えるわけだが……

如何にして少女たちがクラウスを倒しにかかるか、それがクラウスにとって「敵にさえならない」ことなのか、あるいは「極上」なのか。百万人の手垢がついた「教官と教え子モノ」というジャンルとは一線を画す関係性や、スパイという新しいジャンルにも注目しながら、是非とも楽しんで欲しいところである。

 

脳内CVメモ

花園:佐倉綾音

百鬼:松井恵理子

夢物語:佐藤聡美

氷刃:猫村ゆき

忘我:東山奈央

草原:Machico

愛娘:戸松遥

クラウス:神谷浩史

愚者:桜咲千依

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