ゆたんぽを抱いて寝る。

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読書記「さよなら異世界、またきて明日Ⅱ」風見鶏/にもし(富士見ファンタジア文庫)

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今日から明日へ。ぼくたちは「さよなら」の轍を残して往く。

 

終わってしまった世界に広がる暖かい物語

魔力崩壊によりあらゆる生物が白い結晶になって消えゆく世界。そんな”終わりゆく”世界に飛ばされてしまった少年ケースケと、旅の途中で出会ったハーフエルフの女の子ニト。本作は、前作「さよなら異世界、またきて明日」に続いて二人の旅路と、そこで出会った人々との心温まる交流を描いた物語となっている。

前作の感想記事も書いているのでぜひ!(露骨な宣伝)

 

前作の感想でも述べたことと重複して申し訳ないのだが、感想としてはやはり「暖かい」というのが一番にやってくる。すっかり人が居なくなってしまった小さな村ではそれでも変わらず生き続ける人が居る。そこには、終わってしまった世界の中に確かな人の営みがあって、人と人とのふれあいが存在していた。

何十年と聖堂への祈りを続け、聖堂の掃除を続けてきたファゴ。

湖畔の家に住むモルモット小説家のモンテ。

踊り子のポーラと、歌い手のジル。

そして、獣人の届け屋シャロル。

世界がゆっくりと終わりに向かおうと、明日それが自分にやってくるかもしれないとわかっていても、それでもひとりひとりは確かに生きている。ケースケ、あるいはニト、もしくは二人を通じて彼らがどう生きたか、どう生きようとしているかに触れることができる。そこで感じたもの、それは言葉や絵画というのは世界や人種、性別を軽々と超越する力を持つということだった。

物語の後半、ニトの提案で聖女様への感謝を示す伝統の祭り「灯花祭」を行うことになる。しかし、ポーラやジル、モンテは今一つ乗り気ではなかった。それぞれに思うところがあり参加を拒んでいたのだが、ニトはなんとしても全員に参加してほしいと願った。そして、ニトなりの方法で彼らを招待しようと画策する。それが功を奏し灯花祭は大成功し村の人々は新たな一歩を踏み出すことになるのだが、人の心を動かすのはやっぱり人なんだなぁと感じるものがあった。異世界であってもそれは変わらない。ケースケやニトを見ていると、本当にそう思う。

旅である以上、出会いがあれば当然別れもある。それは誰にとっても悲しいものだ。しかし、明日を信じて前を向いて歩いていけばきっと再び出会うことができる。二人とシャロル、そしてあの村の人たちにそんなことを教えられた。

 

ニトの心は水彩絵の具のように澄み切っていた

前作でも「ニトがとにかくかわいい」という話を書いた気がするが本作はさらに磨きがかかっているように感じた。幽霊を怖がってみたりシャロルとケースケがちょっといい雰囲気になっているとぷくっと膨れてみたり、とにかく一挙手一投足がかわいい。そして、そのどこまでも真っ直ぐで純真な性格は彼女が好んで使う水彩絵の具のように透明感があって、ケースケが言う通りニトにかかればどんな人でもたちまち篭絡されてしまうことだろう。筆者もその一人だ。

本作におけるニト一番の可愛さ、それはやっぱり例の「招待状」の場面に他ならない。彼女が心の底から村の人たちを灯花祭に来てほしい、バラバラになってしまっていた彼らの心をもう一度つなぎ合わせたいという思いがひしひしと伝わってくる。そこにあるのは純粋なニトの彼らに対する思いだけであり、それが結果的に彼らの心を動かすことになったのだから、やはりニトの魅力はこの真っ直ぐな心に他ならないのだろう。彼女が丹精込めて描き上げた招待状は、さぞかし美しいものだったに違いない。

人間、生きているとどうしても計算が働いたり見返りを求めたりしてしまう。だけど、本来誰かのために何かをするのにそんなものは要らないのだ。誰かを思う心、ただそれだけあればいい。忘れがちな大切なことをニトに教わったような、そんな気がする。

 

ちょっとだけ素敵な二人の関係

届け屋の少女・シャロルについても触れておかねばなるまい。本作のもう一人のヒロインと言っても差し支えない彼女。届け屋をしながら大好きだった物語の結末をずっと探していた彼女の心がニトやケースケと触れ合っていくうちに少しずつ変化していくのもまた、本作の見どころと言えよう。

シャロルはきっと、届け屋として世界中を旅している中で様々な街の様子をその目で見てきたのだろう。出会ったばかりの頃のシャロルは、どことなく達観したような様子だった。それが終盤にかけて少しずつ表情が和らいでいき、心も少しずつ変化していくのがわかった。同時に、彼女がどんどん魅力的になっていくのが見ていて楽しかった。夜の湖でケースケと二人ボートに揺られる場面はその最高潮である。彼女の目に映ったケースケの姿は、本当にちょっとだけ素敵だったのか。ニトとの関係ともまた違った関係性の二人もまた、見ていてとても楽しかった。

 

また、明日

旅は出会いと別れの繰り返し。ケースケ達は村を後にする。彼らの物語がこの後どう展開していくのかわからないが、出来ることならまだまだ彼らの物語を見てみたいと筆者は切に願う。

さしあたり、ドラゴンマガジン誌上で短編連載なんてやってくれたら筆者は飛び上がる飛び上がったまま異世界転生してしまうかもしれない。村や、旅先で出会う人たちとの触れ合いをもっともっと見てみたい筆者のわがままではあるが、こういう異世界転生モノは本当に稀少でもっともっと売れて欲しいと思うので、どんな形もいいので、ぜひ……という勝手な要望を添えて、本作「さよなら異世界、またきて明日Ⅱ」の感想記事とする。

 

 

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