いいリレーでした
個人的には雛菊2daysの1日目だったりもします
8月26日、お江戸日本橋亭で古今亭菊之丞師匠の落語会「ザ・菊之丞」を観てきました。何を隠そう菊之丞師匠の落語が大好きな筆者、遠征しながら都内の寄席や落語会に何度も足を運び、それがきっかけでまめ菊さん(現・雛菊さん)を知って今に至るというくらいに、本当に大好きで粋な噺家さんです。
今回の「ザ・菊之丞」は、事前告知もあった通りなんと雛菊さんとの親子会、しかも「子別れ」を通しで演るという鬼畜の所業弟子への愛情に溢れた会です。こりゃあ行くしか無い!
誰が中トリで死神演ると思うか
日本橋亭のキャパって勝手に30人かそこらだと思ってたんですが、この日は客席を高座と近付けて50人くらいの席になってたと思います。満員御礼で始まった24回目となる「ザ・菊之丞」さてどうなるでしょうか。
道具屋 柳亭左ん坊
今日の前座は柳亭左龍師匠のお弟子さんの左ん防さん。初めて高座で見る方でしたが、基本に忠実ながらもメリハリのあるいい落語を演られる噺家さんといった印象。それもそのハズで、まもなく二ツ目なんですね。いやはや、落語協会は安定して上手な芸人が出てくるなぁ……
死神 古今亭菊之丞
菊之丞師匠、1席目。今日も粋でいなせな出で立ちで高座に上がります。これだけで江戸の風が吹くのだからやっぱりすごい。そして1席目に掛けたネタはというと、死神。
えっ、死神!?
噺に入った時点でもちょっと先を疑うくらいのチョイス。だってこのあとに子別れ演るんでしょ???? まじで師匠これはやってんな……
でもってね、菊之丞師匠の死神がまぁーーーーいいんだこれが。死神が本当にゾッとするくらいに怖くて、笑い方とか所作とかがもう本物なんですよ(本物の死神ってなんだ?)。ほんと、死神って人間の人間臭さが全部詰まってていい噺だなって思います。あと個人的に菊之丞師匠のサゲが実は好きだったりしますね。あれこそ死神って感じ。アジャラカモクレンビッ●モーターテケレッツのパー。
子別れ(上) 古今亭雛菊
またの名を強飯の女郎買い。真打の師匠でも持ってる人があまりいないし持ってても寄席はもちろん独演会でもまぁーーー演らないでお馴染みの子別れ(上)。なぜなら、サゲっていうサゲがない上にひたすらに熊五郎のクズっぷりを描くだけの噺だから。
そんなクソほど面白くない部分(ほぼ全会一致の半公式見解なので許せ)を弟子に演らせるというのはどうなんでしょうか。そうか、これがパワハr
そんな子別れ(上)なんですが、雛菊さんが見事にクズを演じきってましたね。話し口調から所作に至るまでとにかくクズ。どこを切り取っても立派なクズ。酒に酔っ払って吉原でやりたい放題暴れるわ、かと思えば家に帰ってこないわ、棟梁から預かった大事な金を女遊びに突っ込むわ。酒と女に溺れて破滅していく熊五郎をたっぷり描ききったところで、おあと交代です。いいクズでした(褒め言葉)
子別れ(下) 古今亭菊之丞
またの名を子は鎹。菊之丞師匠の得意ネタのひとつでもあります。そして、通しで演るからこそ改心した熊五郎の職人っぷりや良いお父つぁんっぷりが引き立つわけです。酒を辞め仕事に精を出して成功を収めた熊さんの表情や仕草が、本当に自信に溢れてて様子が良いんですよね。
それでいて流石は菊之丞師匠と感じたのが、亀ちゃんと再会するシーン。それまで「大工の棟梁の熊五郎」の表情だったのが一変、3年ぶりに再会した亀ちゃんを前に一瞬にして「亀ちゃんのお父つぁん」の表情にガラリと変わるんですよね。このあたりの心の機微を表情や所作、言葉の柔らかさで伝えられるっていうのが本当に菊之丞師匠のすごいところだなと。それでいて、あまり湿っぽくなりすぎないバランス感覚が本当にすごい。
通しで見て感じたのは、熊五郎って職人肌で不器用だけど、家族のことはずっと大事に思ってたいい父親だったんだなということですね。酒でしくじったから酒をすっぱり辞めるっていうのも相当な覚悟だっただろうし、3年で棟梁になって稼げるまで出世したのも根底にある真面目で腕利きな証拠です。そして会わなくなってからもずっとあの時やってしまった過ちを悔いていたこと。「子別れ」を通して見ると熊五郎の人間模様がありありと浮かび上がってきて、本当にいい会でした。