移籍しても安定の面白さでした
ようやっと追いつきました
昨日の記事にも少し関連する話になりますが、ヤマザキコレ先生の「魔法使いの嫁」最新第20巻を購入し、18巻から一気読みすることで無事に「学院編」が筆者の中で完結しました。現行20巻のうち約半分を費やして描かれた学院編ですが、筆者の雑感を記録としてここに残していきたいと思います。
例によって個人の感想なので、あまり過度な期待はしないこと。
面白かったということだけは先に言っておきます。
「魔法使い」と「魔術師」それぞれの生き様
本作は一貫して「魔法使い」と「魔術師」、「魔法」と「魔術」が別物であるという設定の元に描かれています。「隣人たち」との契約により彼らから「借りる」ことで「魔法」を行使する「魔法使い」と、触媒や己の魔力を元に「魔術」という科学を行使する「魔術師」。2つの似て非なる者が互いに存在するイギリスの世界において、それぞれの立場や生き様がより具に描かれたのがこの「学院編」だったように筆者は感じました。
「家」という存在によって縛られた「魔術師」の姿は、孤高で孤独な「魔法使い」とは真逆の生き方です。「学院」創設に携わったとされる7つの家、その末裔達はそれぞれがそれぞれの事情や「家」のしきたりの中で時に苦しみ、時に悩み、時に他者と衝突しながら生きています。その背景には「魔術」が「魔法」とは異なり技術として、ある種の科学として存在していることが起因しているわけで、彼ら「魔術師」の様式や生き方に触れたことは「魔法使い」であるチセにとって得るものが大きかったのではないでしょうか。もちろん彼女自身今までも魔術師と触れ合う機会はありましたが、基本的に敵対したり衝突したりすることが多かったこともあり、彼女自身にとっても「魔術師」という存在に対する認識が変わる、そんな「学院編」だったのではないでしょうか。
「魔法使い」と「魔術師」の決定的な違いを描いた場面が、17巻にありました。魔術書に取り込まれてしまったフィロメラを助けようと駆け出そうとしたチセを、教師が止めに入ります。彼らの言い分は、チセは聴講生という立場ではありますが学院の生徒であり、学院の理に従うべきだと、そういうのです(学院長はハッキリとそうは言ってませんでしたが)。このあたりが実に人間的と言うか「魔術師」らしいなと思うポイントです。「魔術師」を縛るのは「家」であったり「学院」であったり血筋であったり、とかく「集団」であることが多いのです。「魔術は魔術師の数だけある」という言葉の通り、己の生み出した魔術を後世に残すのは血を分けた親族かそれに近い集団です。だからこそ彼らは「家」に「組織」を大切にするのだとすると、「学院」という構造は実に理にかなった存在であると言えます。
一方の「魔法使い」はと言えば、そんな物には一切興味を示しません。彼らを縛る唯一の法、それは「隣人たち」との「契約」に他ならないのです。”フィロメラとポプリを作る”という約束(=契約)をしたチセはその「契約」に従って行動しなければいけない。それが「隣人たち」に対する唯一の信頼になるのだから。エリアスは学院長にそう告げて、チセと共にフィロメラの元へと向かいました。エリアスがその場の空気を読んだりチセの気持ちを慮ったりするような器用なことができるとは到底思えないので、本心から、あるいはチセの魔力を通して知り得た二人の「契約」からそう言い放ったのでしょう。この対比構造が実に面白く、また物語としての深みがここにあったのではないかと思います。
「学校」という「忌むべき過去」との決別
それともう一つ。チセにとってこの「学院編」がもたらした大きな影響は、同学年の少年少女たちと過ごす中で自分を出してもいいのだと、他者に自己主張をして良いのだと思わせてくれたことではないでしょうか。
チセにとってかつて「学校」とは自分を異端視し迫害した場所でしかなく、暗くて窮屈で苦しい場所でしかありませんでした。本編でも何度か回想されて出てくるしフィロメラの”中”に入りかけらを集めていたときにも出てきましたが、「学校」にいい思い出が一つもなかったというのが随所で伺えます。そんなチセにとって「学院」は初めてあるがままの自分を受け入れてくれる場所であり、それどころか「魔術師」とはまるで異なる「魔法使い」であったとしても迫害や差別を受けること無く居られる初めての場所だったのではないかと筆者は考えます。もちろんエリアスを初め、「魔法使い」としてのチセを受け入れてくれる個人は今までも存在していました。親友のステラも居ます。ただ、彼らは「エインズワースの弟子」としてチセを見ている者や「人間として」チセと接している者ばかり(後者についてはそれはそれとしてチセにとってもいい関係ではあるのですが)。そんな中、「魔術師」ではありながらも初めて自分と近しい、それも年齢も近しい存在と数多く触れ合える場所という意味で、「学院」は彼女にとっても非常に良い経験となったことでしょう。初めはどこか気まずい様子だったルーシーとの関係も時間を重ねることでどんどん親密になっていったし、他の学院生にしてもそうです。
そこに「魔術師」も「魔法使い」も関係なく、ただ同じ場所と時間を共有する「友人」として存在し合う。「学校に通う同年代の友達関係」というチセがかつて願っても手に入らなかった物を改めて手にできたというのは、チセにとっても非常に良い作用だったはずです。そしてそれは、エリアスにとっても。「友人」という存在を初めて主体的に自覚できたことで「友人」を覚えたエリアスは、今まで「知人」だと思っていた存在が「友人」なのだと気付きます。二人が互いに成長し合いながら互いの先生をやりつつ、夫婦という関係でも絆が強まっていく。これぞまさに帯にも書かれた「人外×少女」というテーマの核となる部分なのだと筆者は感じました。
いつの間にか連載媒体も変わり、新たな物語が幕を開け
筆者がサボっている間に、いつの間にか版元がマッグガーデンからブシロードコミックスに変わっていました。誌上での学院編連載が終わったのをきっかけに移籍に向けた動きがあったようで、去年の冬に移籍していたんですね。調べてみると担当編集さんがそのままブシロードコミックスに行ったみたいなので、円満に移籍だったようですね(推測ですが)。そして新編ではどんな物語が描かれるのか。「学院編」でチセが変身した「赤い竜」の正体がキーになってくるようですが、そのあたりは10月発売の最新刊を楽しみに待ちたいと思います。